くず星

ゴミ箱をひっくり返したように 散らかったくず星 生きる意味を失い何百年も この世にすがる惨めなくず星 半球に広がる暗い空は 汚れて尚哀しい 群青の陰影の中に佇む人影が ひと雫の水滴をこぼす時 ブリキの私は尋ねた 何故涙を流すのかと 「“果たす”の意味を知っていますか? 遂げること、全うすること、終わらせること。 わたしは使命を果たしていないが、 命を果たさなければならない。 なんとむごい運命」 …

本当の価値

あなたにとっての財産は何ですか? 有名ブランドの腕時計ですか? 何キャラットもの指輪ですか? それともお金ですか? 私にとっての財産は、 たった1500円の詩集です。 それは、 私が挫けそうになったとき、怒ったとき、傷ついたとき、 いつも私の心を 幸せな気持ちで満たしてくれるものです。 例えば、 あなたが砂漠の真ん中にいるとします。 食料は尽き、水もなく、 のどはかきむしるほどに、乾いています。…

ぼくとライオン

腹が減った いつもそう思う 真っ赤な太陽の光に 食欲の激しさをみる 山々の稜線を黙視するとき 腹の虫が騒いだり、大人しくなることを連想してしまう 腹が減る 腹が鳴る アフリカのサバンナで寝ているライオンの群れは 腹を空かすと機嫌が悪い そんなライオンも 太陽の光を浴びながら 山並を見つめ 腹を空かす ぼくと同じだ そして同時に 腹が鳴る

My Favorite Poetry ※自作ではありません

今回は私が作ったのものではありませんが、とても好きな詩なのでご紹介します。原文の下に訳も書いてますが、誤訳もあるかもしれないのでご容赦ください。大意を捉えるのには多少役立つと思います。作者はThomas Gray。1747年に書いた作品だそうです。 ODE ON THE DEATH OF A FAVORITE CAT, Drowned in a Tub of Gold Fishes. Thoma…

喧騒から静寂へと変わる頃

喧騒から静寂へと変わる頃、 ぼくは本を置き、窓から外を眺めた。 二色の水彩絵具のように混ざり合う、 夜の闇と落日の残照。 落日は闇へとバトンをつないだ。  熟成途中の林檎の果実は、  黄金の世界に赤が浸透し始める。  そこから三つをもぎ取った、宵の金星。  太陽に恋する月は、決して彼に追いつかない。  哀しみに暮れた、闇に好かれる月は、  腹いせに  その身を半分に削り、  闇夜の道しるべとなる…

哀と友の花

古代ギリシャの スパルタは 広く猛きな 勇者の地 そこに芽生えし 悲劇の花 竪琴と弓矢 捨て去った 文芸詩歌の 太陽神 スパルタ生まれの 少年と  彼を愛する 太陽神 大きな円盤 投げ比ぶ 雲を分けて 飛んで行く 力見せつける アポローンよ  大地を跳ねた 円盤は ほんの些細な いたずらで 少年の顔 打ちつける 血潮は大地を 染め上げる 生命奪われた 美少年 悲しみ悶える 太陽神 竪琴手に取り …

親子星

星が爆発した その星は氷だらけで生物がいなかった 恒星の光もほとんど届かない程に寒く、暗かった やがて屑片とガスが混じり合い 新たな星が生まれて、煌きはじめた 恒星の光を浴びる新たな星には 大気ができ、水ができ、生物ができた 生物は知恵をつけ、その数を無限に増やした 月日が経ちあたたかな魂が彷徨うこの星で ひとりの少年がつめたい岩の上で悩んでいる お尻がじわっと濡れているように感じるほど冷たい岩…

男はブラックコーヒーを飲んでいる

男はブラックコーヒーを飲んでいる 仕事合間の休憩なのか 髪は丁寧にかきあげられ、がちがちに固められている タイトなスーツのよく似合う男は ブラックコーヒーを飲んでいる 残念なことに、靴は底 が磨り減り光沢を失っている スマートフォンを片手に見事な指さばきを披露する男は ブラックコーヒーを飲んでいる よく見ると付けすぎた整髪料が乾いて白い粉が吹いている 襟元の黄ばんだシャツを着た男は ブラックコー…

吾輩

「何処其処の誰其れが何何だそうだ」 聞きたくもないが、耳に入ってくる。 場所を移す。 「彼処で何何が安く売っているが質が悪い」 どうでも良い。 吾輩は欠伸した。 身を縮こませていると、小さな子供が寄ってきた。 吾輩は、愛嬌を安売りしておいた。 町内散歩は暇を潰すのにもってこい。 ぐるりと廻って帰宅すると、 報道番組を流しながら、主人がうたた寝している。 「年間十万頭の猫が殺処分されています。この…

二重心臓

生命の緒を貪り啖う野獣は 心臓を好物とした およそ全ての人間に潜む 心を襲う怪物 三年前に狙われた我が心臓は 少しずつ蝕まれている 休むことを知らぬ野獣は盲目で 人の声すら届かない 意外な手紙は懐かしく 居心地の良い匂いがする その手紙は種となり 新たな心臓を生やした 生命の緒を貪り啖う野獣は 我が前に姿を現す 獲物を掴む尖った鉤爪と すり潰し味わう平らな歯 「人は複数の心臓を持っている 胸の痛…

織匠

何千何万の結びが創る、 ペルシャ絨毯の耽美な模様。 三無主義の織匠は、 人生と意匠を同様に見つめる。 「まず始めは〈人生〉という広大な経糸を 〈誕生〉の緯糸と組み合わせ、 〈幸福〉の意匠を織り上げる。 結びは〈人生〉の経糸を 〈死〉の緯糸と組み合わせ、 〈快楽〉の意匠を織り上げる。 これを基本とする。 その中間においては基本的に、 〈成長〉、〈結婚〉、〈出産〉、〈労働〉の 緯糸で意匠をつくるが、…

不自然

遅く早く流れる渓流 清純無垢に暴れる銀の魚 見つめているのは 鋭利な毛針 鬱蒼と茂る密林 純粋な風に吹かれる新緑の葉脈 聞こえてくるのは 大地を揺るがす機械音 木々に囲まれ息殺す人間 コンクリ育ちの服着た人間 彼らは呟く 「これが自然か」

暇潰し

ある小さな田舎町の 小さな宿屋の一階に 至極温厚な熊一頭 小さな宿屋の二階には 三つの幼子 三つの黒い子供は路傍で踊る その黒い子供の愉快な踊りに魅了され 熊は二階を訪ねる 三つの幼子は大いにはしゃいだ 皆仲良く黒い行進 人好き熊の魂は 安住を得るところとなった 黒い行進を目撃した暗鬼な男は鉄砲を担いだ 本能に任せて放った玉は 純朴な熊を貫く 全ては月の戯れ

ドア

外はたくさんの音で溢れている。 ヒトの音、自然の音、生き物の音 音と思考が混淆するとき、わたしは狼狽の極地に至る。 だから耳にドアを取りつけることにした。 世界はたくさんの物質で溢れている。 ヒト、建物、生き物 物質と思考が目まぐるしくわたしを襲う。 だから目にはドアが必要なのだ。 地球はたくさんの不快なニオイで溢れている。 ヒトの体臭、自然のニオイ、生き物のニオイ ニオイがわたしの思考を愚鈍に…

名前も知らない山

朝のこと。 外に出て、静かに呼吸をしてみた。 すぅー はぁー 今度は荒々しく呼吸をしてみた。 スー ハー どくんっと心臓の震えを感じた。 東の空に朝の光が漏れている。 名前も知らない山々の稜線は、 滑らかで黄金色にきらめく、 ぼくの生命線。 太陽と山々と、魂のうずきを感じた。 ぼくの命を狙う死神の赤い目は、 ぼくをじっと見つめていた。 怖かったけど、山から勇気を貰った。 だからぼくは、目を逸らす…

言葉の呪縛

身体に足が生えた。 そしたらみるみる内に二本の足で歩けた。 手に四つの割れ目ができて、五本の指に裂けると、 小さなものを掴めるようになった。 石をぶつけると、生き物が死ぬ。 石をぶつけると、火花が起こる。 閃くものが、火を使って肉を焼いた。 閃くものが、火を使って暖をとった。 やがて、自分の気持ちを聞いて欲しくて 他人の気持ちが聞きたくて 言葉を作った 言葉が人間同士の繋がりを生み出し、 新たな…

専門家

空がなぜ青いのか ボクはよく知らないけれど 理科の先生にきけばわかる お腹がなぜ痛くなるのか ボクはよく知らないけれど お医者さんにきけばわかる 月の向こうになにがあるのか ボクはよく知らないけれど 宇宙飛行士にきけばわかる ボクがなぜ生まれてきたのか ボクはよく知らないけれど それはボクにしかわからない 絵を描くとき 詩を紡ぐとき ボクにしかわからない理由が ほんの少し わかった気がした

空のアメ玉

南アルプスを背景に聳える山の頂上にやって来た。 小さな私を包んでくれた大きな冬銀河。 銀河と地球の間にいる気持ちをもっと知りたくて 都会にはない暗黒のなかで輝く空と 私のまぁるいお腹を平行にさせた。 小さな星のツブツブは アメ玉のように輝いて 空の口のなかいっぱいに広がっていた。 海蛇 小熊 オリオン 火星 土星の輪っか アメ玉を舐める私は 空のアメ玉すらも舐める ちょっとだけ得意な気持ちになっ…